ノック
大理石調の壁の前で考え事をしながら立ち尽くしていた時、私はふいに壁をノックした。
コンコン。
鈍目の硬質の音が耳殻を刺激する。なぜこんなことを?壁の堅さを確かめたかったからかもしれない。ほんの好奇心。
私は壁から少し離れた。ついさっきまで立っていた場所を眺めることのできる位置にまで。
やはり唐突に私は期待した。
誰かが壁をノックし返してくれることを。頭の中で私は突拍子もない妄想をし、あり得ないはずの出来事が実際に起こった時のことを想像して、自分がどのように驚くかを予想していた。そうすると涙腺が少し緩んだが涙は出ない。
壁の中はどうなっているのだろうか?想像するまでもなく現実には壁の中は空洞が広がっているに違いない。そして失望するまでもなく、そう考えた時点で私は興味を失っていた。